損益通算

バイナリーオプションの損益通算|同じ年に合算できる取引の範囲

同じ年に出たバイナリーオプションの損失は、他の「先物取引に係る雑所得等」の損益とは通算できますが、それ以外の所得とはできません。国税庁の記載と各社の公表内容から、同じ枠に入る取引、株式や給与との区別、業者をまたぐ合算、申告に添える書類を整理します。

同じ年に、バイナリーオプションでは損失が出てFXでは利益が出た。この2つを足し引きして申告できるのかどうかが、損益通算の問題です。答えは国税庁のタックスアンサーに書かれていて、国内で登録を受けた業者との取引で生じた損失は、他の「先物取引に係る雑所得等」の金額との損益の通算は可能ですが、先物取引に係る雑所得等以外の所得の金額との損益通算はできません(国税庁No.1522)。差し引ける相手は、同じ枠に入る取引の損益だけです。

厄介なのは「損益通算」という言葉そのものです。所得税法でいう損益通算は、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つで生じた損失を他の所得から差し引く仕組みを指し、国税庁No.2250は雑所得について「その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません」と書いています。それでもバイナリーオプションで「損益通算できる」と言われるのは、特例の中にもう1つ別の通算が置かれているからです。2つを混ぜて読むと、株の利益や給与から差し引けるという誤解になります。

この記事は、同じ年の中でどこまで足し引きできるのかに範囲を絞ります。国税庁のタックスアンサーと、取扱業者が自社の公式ページに書いている通算の相手を並べ、どの取引が同じ枠に入るのか、口座や業者が分かれている場合はどうなるのか、申告に何を添えるのかを確認します。年をまたぐ3年の繰越しは損失の繰越控除、枠の判定と税率そのものはバイナリーオプションの税金に分けて書いています。当サイトは税理士事務所ではなく、個別の税務判断は行いません。自分の年分にどう当てはまるかは、所轄税務署または税理士に確認してください。

「損益通算」という言葉は、2つの違うものを指している

「損益通算」という言葉が指す2つの仕組みを左右に並べた対比図。左は所得税法の損益通算で、損失を他の所得から差し引けるのは不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つの所得の計算上生じた損失だけであること、同じページが配当所得・給与所得・一時所得および雑所得について「その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません」と書いていること、雑所得の損失を他の所得から差し引く形では使えないことが並んでいる。右は特例の中の通算で、「先物取引に係る雑所得等」の金額の計算上生じた損失の金額について、他の「先物取引に係る雑所得等」の金額との損益の通算は可能、先物取引に係る雑所得等以外の所得の金額との損益通算はできない、という2行が丸と罰の記号付きで示され、差し引ける相手は同じ枠に入る取引の損益だけだと書かれている。下の帯には、同じ言葉でも差し引ける相手が違い、バイナリーオプションは損益通算できるという言い方は右側の意味で使われていると書かれている
図1:言葉は同じでも、差し引ける相手が違います左は国税庁「No.2250 損益通算」、右は「No.1522 先物取引に係る雑所得等の課税の特例」の記載(いずれも2026年10月9日確認)。2つを対比させた形は当サイトの整理です

国税庁No.2250は、損益通算の対象になる所得として(1)不動産所得(2)事業所得(3)譲渡所得(4)山林所得の4つを挙げています。そのうえで、配当所得、給与所得、一時所得および雑所得の金額の計算上損失が生じることはあるとしながら、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできないと書いています。雑所得の赤字を給与から引く、という形は所得税法の損益通算には用意されていません。

一方のNo.1522は、一定の先物取引の差金等決済をした場合に、その先物取引に係る事業所得、譲渡所得および雑所得について他の所得と区分して課税する特例を説明しています。この特例の中に、冒頭で引用した通算の規定があります。つまり国内業者とのバイナリーオプションについて語られる通算は、所得税法の損益通算ではなく、特例の内側で同じ枠の損益を足し引きするほうの話です。図1の左右は、同じ言葉が別の仕組みを指している状態を並べたものです。

言葉の違いは、結論の違いとして現れます。所得税法の損益通算は、黒字の所得を赤字の所得で減らして総所得金額を小さくする仕組みで、効き方が所得の種類をまたぎます。特例の中の通算は枠の内側で完結し、枠の外にある所得の金額を動かしません。検索して出てくる「通算できる」が、どちらを指しているのかを確かめる必要があります。なお、自分の取引がどの所得区分に当たるかは取引の実態で決まるため、当サイトが一律に決めることはしません。

同じ枠に入る取引と、入らない取引を分ける

取引・所得 国税庁の記載 どの枠になるか
国内の第一種金融商品取引業者を相手方として行う店頭のオプション取引・指標オプション取引 店頭デリバティブ取引のうち一定のものとして特例の対象(No.1522) 先物取引に係る雑所得等
金融商品市場で行う市場デリバティブ取引のうち一定のもの 「金融商品先物取引等」として特例の対象(No.1522) 先物取引に係る雑所得等
市場デリバティブ取引または店頭デリバティブ取引に該当するFX取引 この特例の対象(No.1521) 先物取引に係る雑所得等
一定の暗号資産または金融指標に係る店頭デリバティブ取引 「一定の暗号資産または金融指標に係るものを除きます」(No.1522) 特例の対象から除かれる
上場株式等の譲渡損失 その年分の上場株式等の配当等に係る利子所得・配当所得(申告分離課税を選択したもの)から控除(No.1474) 上場株式等の枠
給与所得・事業所得などの他の所得 「先物取引に係る雑所得等以外の所得の金額との損益通算はできません」(No.1522) 差し引く相手にならない

表の1行目にある「相手方」の条件が、この枠の入口です。No.1522は特例の対象となる店頭デリバティブ取引について、金融商品市場および外国金融商品市場によらないで行われる、いわゆる先渡取引、指標先渡取引、オプション取引、指標オプション取引で、同法上の第一種金融商品取引業者または登録金融機関を相手方として行うものという書き方をしています。国内の取扱業者が提供するバイナリーオプションは、業者と顧客が直接向き合う相対取引なので、取引の形としてはここに当てはまります。

FXが同じ枠に入るかどうかは、別のページに書かれています。No.1521は、金融商品取引法上の「市場デリバティブ取引」または「店頭デリバティブ取引」に該当するFX取引が対象だとし、損失について他の「先物取引に係る雑所得等」の金額との損益通算は可能だが、それ以外の所得の金額との損益通算はできないとしています。国内業者の店頭FXと国内業者のバイナリーオプションは、どちらも同じ枠の中に入りうるということです。商品としての違いはバイナリーオプションとFXの違いで扱っています。

仮定の金額を使って、同じ年の損益のうち足し引きできる範囲を示した図。左の枠は同じ枠に入る取引で、国内業者のバイナリーオプションがマイナス12万円、国内業者のFX(店頭デリバティブ取引)がプラス20万円、取引所の日経225先物(市場デリバティブ取引)がプラス3万円と並び、区切り線の下に通算後の「先物取引に係る雑所得等」がプラス11万円と示されている。注記として、この年分はこの金額に所得税15パーセント(他に地方税5パーセント)がかかること、12万円の損失は同じ枠に入る20万円と3万円の利益から差し引けること、損失が枠の利益より大きければその年分の金額は0になることが書かれている。右の枠は別の枠に入るもので、上場株式等の譲渡益プラス15万円は上場株式等の枠で計算し先物取引の損失では減らせないこと、給与所得・事業所得などは先物取引に係る雑所得等以外の所得との損益通算ができないこと、海外の無登録業者との取引は相手方についての要件を満たさないためこの枠に入らず通算の相手にもならないことが並んでいる。下の帯には、赤字と黒字を足し引きできるのは同じ枠の中だけで、枠が違えば同じ年に出た損益でも別に計算すると書かれている
図2:仮定の金額で、足し引きできる範囲だけを示しています枠の区分と通算の範囲は国税庁「No.1522」「No.1521」、上場株式等の扱いは「No.1474」の記載(いずれも2026年10月9日確認)。金額は仕組みを示すための仮定で、見込める損益ではありません

枠の外に出るものも押さえておきます。上場株式等の譲渡損失については、No.1474が、その年分の上場株式等の配当等に係る利子所得の金額および配当所得の金額(申告分離課税を選択したもの)から控除すると書いています。相手として挙げられているのは上場株式等の配当所得等で、先物取引に係る雑所得等は入っていません。株の利益が出た年にバイナリーオプションの損失をぶつける、という形は取れないことになります。

暗号資産がからむ取引も、入口のところで分かれます。No.1522は特例の対象となる店頭デリバティブ取引から「一定の暗号資産または金融指標に係るものを除きます」としており、除外が明記されています。ただし除かれたあとどの区分でどう計算するのかは、当サイトが今回読んだページには書かれていません。国税庁No.1524は暗号資産の課税関係について別の資料を案内する形になっており、その資料はPDFで、当サイトの取得環境では本文の文字を取り出せませんでした。確認できていないことを推測で埋めない方針なので、ここは空けておきます。

業者が違っても、同じ年の損益なら同じ枠の中で合算する

事業者(確認したページ) 公表されている通算の相手
GMOクリック証券(税金・外為オプション) 「FXネオ取引」「くりっく365取引」「くりっく株365取引」「外為オプション取引」「CFD取引」「株価指数バイナリーオプション取引」について、他の「先物取引に係る雑所得等」の損益との通算が可能
トレイダーズ証券(みんなのFX・税金) 店頭デリバティブ取引(「みんなのFX」「みんなのシストレ」「みんなのオプション」)の決済差損益について、取引所で行う先物取引等(くりっく365、日経225先物・オプション等)に係る売買損益との通算ができる
楽天証券(らくオプ・確定申告) 損失の繰越控除や先物取引間での損益通算が行える
楽天証券(先物・オプション・確定申告ガイド) 日経225先物取引・日経225ミニ取引・日経225オプション取引の損益は、商品先物、くりっく365(「取引所取引」の外国為替証拠金取引)などと損益の通算が可能。ただし、株式とは所得区分、課税方式が異なるため損益の通算はできない

枠は所得の区分で決まるため、口座や会社ごとに閉じてはいません。各社の公式ページの書き方も、それを裏づける形になっています。GMOクリック証券は自社の6つの取引を挙げて、他の「先物取引に係る雑所得等」の損益との通算が可能だとしています。トレイダーズ証券は、店頭デリバティブ取引である「みんなのオプション」の決済差損益を、取引所で行う先物取引等に係る売買損益と通算できると書いています。店頭と取引所という違いをまたいでいる点が、枠の判定が取引の場所だけで決まらないことを示しています。

楽天証券は2つのページで別の角度から書いています。バイナリーオプション(らくオプ)のページでは、取引損益が「先物取引に係る雑所得等」に区分され、損失の繰越控除や先物取引間での損益通算が行えるとしています。先物・オプションのページでは、日経225の各取引の損益が商品先物やくりっく365などと通算可能だとしたうえで、株式とは所得区分と課税方式が異なるため損益の通算はできないと明記しています。業者が違う記載でも、枠の内と外の線は同じ位置に引かれています。

箱に入った書類を手で仕分けている様子のイメージ写真
通算の作業は、その年の損益を枠ごとに仕分けて集計することから始まります。この写真はイメージで、日本の申告書類や特定の業者の画面を写したものではありません。写真: cottonbro studio(Pexels)

ただし注意が要ります。各社が書いているのは自社が扱う商品についての説明で、他社の口座にある損益まで含めてどう記入するかという手順は、今回読んだページには書かれていません。複数の会社に口座がある場合の集計方法や、どこまでが同じ枠なのかという最終的な判断は、所轄税務署または税理士に確認してください。各社の取引条件そのものは比較・口座選びに出典と確認日つきで並べています。

集めた損益は、1枚の計算明細書にまとめる

同じ年の損益を通算して申告するまでの流れを5段階の番号付きの行で示した工程図。1は、使った業者ごとにその年の損益がまとまった書類を集めることで、名称は社ごとに違い年間損益報告書や期間損益報告書などがあると注記されている。2は、差金等決済したものを国税庁が挙げている区分で分けることで、商品先物取引等、金融商品先物取引等、カバードワラントという区分が示されている。3は、同じ枠に入るものだけで赤字と黒字を足し引きすることで、業者が違っても同じ年の損益なら同じ枠の中で通算すると注記されている。4は、「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」を添付して確定申告することで、提出先は所轄税務署と書かれている。5は、引ききれない損失は翌年以後3年内の各年分から控除できることで、一定の要件があり年をまたぐ話になると注記されている。下の帯には、3までが同じ年の中の計算、4が申告、5が翌年以後の話であること、どの区分に当たるかの判断は所轄税務署または税理士に確認することが書かれている
図3:同じ年の計算、申告、翌年以後を分けています区分と添付書類は国税庁「No.1522」、繰越しは「No.1523」の記載、書類の名称はGMOクリック証券と楽天証券の公式ページの表記(いずれも2026年10月9日確認)。5段階に分けた並べ方は当サイトの整理です

通算は、申告書の上で完結する作業です。No.1522は、「先物取引に係る雑所得等の金額」について確定申告をする場合には、確定申告書に「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」を添付しなければなりませんとしています。足し引きの結果だけを書くのではなく、計算の内訳を示す書類が付く形です。提出先は所轄税務署です。

出発点になるのは、各社が出す年間の損益の書類です。GMOクリック証券は外為オプションについて、取引で発生した損益をまとめた「年間損益報告書」を毎年年初に発行するとしています。楽天証券は、らくオプの損益をマイページの口座・報告書からバイナリーオプションの「期間損益報告書」を選んでPDFでダウンロードできると案内しています。名称が社ごとに違うため、自分が使っている業者の表記で探すことになります。取引履歴を画面から自分で合計する必要はありません。

書類の中身まで案内できない部分もあります。計算明細書の様式と手引きは国税庁がPDFで公開していますが、当サイトの取得環境では様式本体から文字を取り出せませんでした。そのため、この記事は添付が必要な書類の名称と提出先までを示し、どの欄に何を書くかには触れていません。欄名や記入例は、国税庁のページから様式と手引きを開いて確認してください。経費として差し引ける費用の位置づけはバイナリーオプションの経費、法人名義や個人事業主の場合に変わる点は法人・個人事業主のバイナリーオプションで扱っています。

同じ年で引ききれなかった損失は、そこで止まる

通算して、それでも損失のほうが大きかった場合はどうなるか。No.1523は、先物取引の差金等決済に係る損失の金額を翌年以後3年間にわたり繰り越し、その繰り越された年分の「先物取引に係る雑所得等」の金額を限度として差し引けると書いています。ここから先は年をまたぐ話で、損失が生じた年分から申告書付表と計算明細書を添付した確定申告書を連続して提出することが要件になります。

この順番が実務上の意味を持ちます。同じ年の中で通算しきれなかった分は、その年の計算では使われずに残るだけで、自動的に次の年へ付いてくるわけではありません。利益が出た年になってから過去の損失をまとめて申告する形では、要件を満たしません。期間の数え方と毎年の提出については損失の繰越控除に分けて書きました。

もう1つ、方向を取り違えないようにしておきます。通算は税金の計算のしかたの話で、失った資金が戻る仕組みではありません。1回あたりの損失額に上限があることと、年間の資金がどうなるかも別の話です。この区別はバイナリーオプションのリスクに書いています。通算できることを、取引回数を増やしてよい理由として読まないでください。

相手が国内の登録業者でなければ、この枠に入らない

枠の入口にある条件は、取引の形だけではありません。No.1522が対象として挙げているのは、第一種金融商品取引業者または登録金融機関を相手方として行うものです。相手方が誰かが要件に組み込まれているため、海外の無登録業者との取引は、同じような商品であってもこの枠に入りません。枠に入らなければ、国内業者のFXやバイナリーオプションの利益と足し引きする相手にもなりません。

金融庁は、登録を受けずに金融商品取引業を行う者の名称を公表し、無登録業者との取引に注意するよう繰り返し呼びかけています。税金の扱いを考える前に、相手が登録を受けているかどうかを自分で確かめる順番になります。確かめ方は業者の登録を確認する手順、制度上何が変わるのかは国内業者と海外業者の違い、公表されている一覧の読み方は無登録業者一覧の読み方にまとめています。

なお、国内の取扱6社が特例の要件にある「第一種金融商品取引業者」に当たるかどうかを、当サイトは金融庁の名簿で1社ずつ照合していません。確認したのは各社の公式ページに記載された登録番号までです。登録番号の数字だけでは業務の種別が分からないため、名簿を開いて確かめる経路が必要になります。税金カテゴリの他のテーマは税金から辿れます。

この記事で確認できなかったこと

範囲を正確に書いておきます。まず、申告書に添える計算明細書と申告書付表の様式はPDFで提供されており、当サイトの取得環境では文字を取り出せませんでした。欄名、記入例、複数の業者ぶんをどう1枚にまとめるのかという具体的な手順は確認していません。

次に、取扱6社のうち税務に関する公式ページを読んだのは、GMOクリック証券、楽天証券、トレイダーズ証券の3社ぶんです。GMO外貨、外為どっとコム、IG証券の税務上の記載は確認していません。表に載せていないのは記載が無いという意味ではなく、当サイトが読んでいないという意味です。自分が使っている業者のページを開いて確かめてください。

最後に、住民税側の手続と、特例の対象から外れた場合の計算は扱っていません。暗号資産を対象とする店頭デリバティブ取引についても、No.1522に除外が明記されているところまでで、除かれたあとの区分と計算方法は確認していません。確認できていない項目を推測で埋めるより、空けておくほうが安全だと判断しました。いずれも個別の事実関係に左右される部分が大きく、一般的な情報として書ける範囲を超えます。

この記事の出典

金額・時刻・取引ルールは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、取引の前に各社の公式ページで確かめてください。