プット

プットは下落の保険になる?バイナリーで損失を埋められない理由

一般のプットの買いは下落幅に応じて受取が増えるため、値下がりへの備えとして説明されます。国内バイナリーオプションのプットは受取が1枚1,000円で固定され、判定時刻の一点で自動的に決まります。両者の違いを各社の規定と協会のルールで確かめます。

取引所で売買されるオプションの世界では、プットの買いは持っている資産が値下がりしたときの損失を小さくする手段として説明されます。楽天証券のオプション取引ガイドは、プットオプションをあらかじめ購入しておくことで「株価が下落した場合、現物株式を単独で保有した場合に比べて損失の軽減を図ることができます」と書いています(2026年11月5日確認)。

国内のバイナリーオプションにも、同じ「プット」という名前の選択肢があります。しかしこちらは、下落の大きさに応じて受け取る額が増えません。GMOクリック証券・楽天証券・みんなのオプション・GMO外貨・外為どっとコムの5社は、条件を満たしたときに受け取る額を1枚(1Lot・1口)あたり1,000円と公表しています(いずれも同日確認)。判定価格が権利行使価格をわずかに下回った場合でも、3円下回った場合でも、受け取るのは同じ1,000円です。

つまり名前は同じでも、保有している資産やポジションの損失額に合わせて受け取りが増える仕組みにはなっていません。この記事では、一般のプットの買いが値下がりへの備えとして説明される理由を数値例で確かめたうえで、国内バイナリーオプションのプットでは何がどう違うのかを、5社の規定と金融先物取引業協会の取扱ルールで1つずつ確認します。用語としてのプットの定義や「売り」との違いはプットとはで扱っているので、ここでは下落に備える道具として見たときに何ができないのかに絞ります。

一般のプットの買いは、下落した幅がそのまま受取に乗る

まず、もとのオプション取引でのプットを確認します。GMOクリック証券は、オプション取引を「ある商品を将来の特定の期日に、特定の価格で買う権利、または売る権利を売買する取引」と説明し、売る権利のことをプットオプションと呼ぶとしています。プットの買い手は、プレミアム(オプション料)を払って売る権利を手に入れ、相場が権利行使価格より下がっていれば、市場より高い値段で売れるので得になります。同社の表では、オプションの買い手の損失は「プレミアムの金額分」に限られ、売り手は反対に買う義務を負い、損失は「無限」とされています。

この性質が、値下がりへの備えとして使われる理由です。楽天証券のオプション取引ガイドは、日経225ETFを9,000円で1,000口(900万円)持っている人が、権利行使価格9,000円のプットをプレミアム200円で1枚買っておいた場合の計算例を載せています。株価が8,000円まで下がると、ETFの損失は100万円ですが、プットの権利行使による利益が「(9,000円−8,000円−200円)×1,000倍」で80万円になり、損失は支払ったプレミアムの20万円にとどまります。反対に10,000円まで上がった場合は、プットを権利放棄してETFの利益100万円からオプション料20万円を引いた80万円が残ります。

日経225ETFを9,000円で1,000口持つ場合の満期の損益を、プットを買っていない場合と権利行使価格9,000円のプットを1枚買っておいた場合で比べた折れ線の図。現物だけでは8,000円で100万円の損失、10,000円で100万円の利益と直線に動く。プットを1枚買っておくと9,000円より下では20万円の損失で止まり、10,000円では80万円の利益になる
図1:下がった幅が受取に乗るので、損失の広がり方が途中で止まります日経225ETF 9,000円×1,000口、権利行使価格9,000円・プレミアム200円のプット1枚、8,000円のときの−20万円、10,000円のときの+80万円は、楽天証券「保有株の値下がりリスクをヘッジする!」の計算例の数値です(2026年11月5日確認)。作図は当サイト。取引所のオプションの例で、バイナリーオプションの図ではありません

図1の2本の線の違いは、下落幅が大きくなるほど広がります。プットの受取が下落幅に連動して増えるため、現物の損失と打ち消し合う形になるからです。この「連動」が、備えとして機能するための条件になります。以下では、国内バイナリーオプションのプットにこの条件が当てはまるのかを順に見ていきます。

国内バイナリーオプションのプットは、受取が1枚1,000円で止まる

国内で店頭バイナリーオプションを扱う5社は、条件を満たしたときに受け取る額を次のように公表しています(2026年11月5日確認)。

  • GMOクリック証券(外為オプション):1枚につき1,000円(固定)
  • 楽天証券(らくオプ):1枚につき1,000円(固定)
  • みんなのオプション:1Lotあたり1,000円
  • GMO外貨(オプトレ!):1口あたり1,000円
  • 外為どっとコム(外貨ネクストバイナリー):1Lotにつき1,000円(固定)

いずれも「固定」と書かれていることが要点です。GMOクリック証券の予備知識は、バイナリーオプションを「満期時点で、原資産価格が権利行使価格に達した場合、一定の金額を受け取るオプション」と説明しています。受け取るのは一定額で、原資産価格が権利行使価格からどれだけ離れていたかは金額に影響しません。

備えとして成り立つために必要なこと取引所で売買される一般のプット国内バイナリーオプションのプット
受取額が下落幅に連動して増えるか増える。権利行使価格と満期の価格の差が受取の基になる増えない。条件を満たせば1枚1,000円で、下回った幅は金額に関係しない
不利なときに権利を使わない選択ができるかできる。権利を放棄すれば損失はプレミアムの金額分できない。判定時刻に自動的に権利行使または権利消滅が行われる
下落側の立場を自分で作れるか(売り手になれるか)なれる。プットの売り手は買う義務を負い、損失は無限とされる国内5社は新規の売建の取扱いなし。IG証券はプットを扱わず、コールの売付が可能
結果が決まるタイミング満期のみ行使できるもの(ヨーロピアン・タイプ)と、満期までいつでも行使できるもの(アメリカン・タイプ)がある判定時刻の判定価格と権利行使価格の比較だけ。判定前は売却で清算できる
表1:連動・放棄・売り手・タイミングの4点が、どれも同じではありません一般のプットの列はGMOクリック証券「オプション取引とは」「オプションの種類」、バイナリーオプションの列はGMOクリック証券「外為オプション 取引ルール」、楽天証券「サービス概要」、みんなのオプション「サービス概要」、GMO外貨「オプトレ! 取引概要」、外為どっとコム「外貨ネクストバイナリー 取引概要」、IG証券「バイナリーオプション取引概要」の記載から当サイトが整理しました(いずれも2026年11月5日確認)

表1の1行目が、この記事のいちばん大きな違いです。受取が固定されているので、下落が大きいほど受け取りも増えるという関係が成り立ちません。損益が「境目のどちら側にいたか」だけで決まることはプットとはで図にしていますが、備えとして見るときは、この固定が「埋められる額の上限」として効いてきます。

下落が3倍になっても、受取は1,000円のまま

数字で確かめます。米ドル/円を1万通貨買っている人が、下落に備えてプットを1枚買っておいたとします。評価損は下落幅に比例して増えますが、プットの受取は条件を満たしても1,000円で止まります。

下落幅が0.5円、1円、3円のときに米ドル/円を1万通貨買っていた場合の評価損5,000円、10,000円、30,000円と、バイナリーオプションのプット1枚で受け取れる上限1,000円を横棒で並べた図。評価損は下落幅に比例して増えるが、プットの受取は3つとも1,000円のまま変わらない
図2:評価損は下落幅に比例して増えますが、受取は1,000円のままです評価損は「下落幅×10,000通貨」として当サイトが計算した仮定の値で、実際の損益はスプレッドなどで変わります。受取1,000円は5社の公表値(2026年11月5日確認)。枚数を増やせば受取も増えますが、支払う購入価格も同じだけ増え、外れればその全額が損失になります

図2のとおり、下落幅が6倍になっても、プットから受け取れる額は変わりません。しかも、ここで比べているのは受取の総額です。実際の利益は受取から購入価格を引いた額なので、たとえば1枚500円で買っていれば残るのは500円です。損益が釣り合う的中の割合の考え方は損益分岐勝率で計算しています。

枚数を増やせば受取の合計は増えます。ただし支払う購入価格も枚数に比例して増え、判定が外れた場合はその全額が損失になります。外れたときの支払いも同じだけ増えるため、備えようとして枚数を積むほど、下落が起きなかった場合の負担が大きくなります。1回ごとの損失に上限があることと、資金が減らないことは別の話で、この両面は損失が限定される意味で扱っています。FXの損失の出方との違いはFXとバイナリーオプションの損失の違いにまとめました。

「権利を放棄する」判断そのものが無い

図1の例では、株価が上がったときにプットを権利放棄していました。一般のオプションでは、買い手は自分に有利なときだけ権利を行使し、不利なら権利を使わずに終えられます。GMOクリック証券の予備知識は、権利行使の時期で分けると、満期においてのみ権利を行使できるものをヨーロピアン・タイプ、満期までの間いつでも行使できるものをアメリカン・タイプと呼ぶとしています。

国内バイナリーオプションの5社は、いずれもヨーロピアンタイプとして提供しており、そのうえで権利行使そのものが自動で処理されます。各社の書き方は次のとおりです(2026年11月5日確認)。

  • 外為どっとコム:判定時刻に、権利行使価格に達していれば自動的に権利行使され、達していなければ自動的に権利消滅します
  • GMOクリック証券:満期時に保有していたオプションに対し、判定価格に基づいて自動的に権利行使・権利消滅が判定されます
  • 楽天証券:判定時刻までに購入したオプションを売却しなかった場合に、判定時刻において自動的に権利行使が行われます
  • みんなのオプション:判定時刻までポジションを保有していた場合、自動的に判定を行います
  • GMO外貨:判定時間になり、権利行使価格に到達していれば自動的に権利行使され、到達していなければ自動的に権利は消滅します

備えとして使おうとするときに関わってくるのは、保有している側が判断する場面が無いことです。一般のプットでは「使うか使わないか」を選べますが、バイナリーオプションでは判定時刻の価格が条件を満たすかどうかだけで結果が決まります。判定前に売却して清算することは5社とも可能ですが、そのときの損益は売却価格で決まり、判定での受取とは別です。売却が選べる場面は判定前に売却するときで扱っています。

プットが選べるのは、協会のルールが求める形の一つ

ここまで読むと、「備えに使えないなら、なぜプットが用意されているのか」という疑問が出てきます。金融先物取引業協会は、通貨関連店頭バイナリーオプションの取扱ルールの概要で、「総取りとならない仕組み」を必須としています。具体的には、買付(ロング)だけでなく売付(ショート)取引を取り扱うか、コールオプションとプットオプションの買付を同時に提供するなどの形が求められます。

同じ概要には、商品性についての定めも並んでいます。権利行使価格は判定時刻の2時間以上前に決定すること、顧客との取引開始から判定時刻までの期間は当面の間2時間以上とすること、判定時刻の間隔は2時間以上で1営業日に設定できる判定時刻の最大数は12回までとすること、取引の開始時点から判定時刻の直前まで顧客がいつでも取引できるようにすることです。

金融先物取引業協会の取扱ルールが求める要件から、各社の提供のしかた、下落側に立つ方法へとつながる関係を3つの枠と2本の矢印で示した図。左は総取りとならない仕組みが必須で権利行使価格は判定の2時間以上前に決定すること、中央はコールとプットの買付を同時に提供するか売付も取り扱うかのいずれか、右はプットを購入する方法とコールを売る方法で受取額は固定であること
図3:プットが並んでいる背景には、片方だけを売る形にしないという要件があります左の枠は金融先物取引業協会「通貨関連店頭バイナリーオプション取扱ルールの概要」の記載、中央と右の枠は国内6社の取引ルール・サービス概要・取引概要の記載から当サイトが整理しました(いずれも2026年11月5日確認)。プットを値下がりへの備えのための商品として説明している記載は、6社の公表資料には見当たりませんでした

図3のように、プットが選べること自体は、上がる側と下がる側の両方を提供するという要件を満たす形の一つです。各社の公表資料に、プットを保有資産やポジションの値下がりに備えるための商品として説明している記載は見当たりませんでした(2026年11月5日確認)。記載が無いことは「使ってはいけない」という意味ではありませんが、少なくとも各社が案内している使い方ではありません。この取引が業者との店頭取引であるという位置づけは何の取引なのかで整理しています。

期間が区切られているため、買い直すたびに支払いが積み上がる

備えとして考えるときに、もう一つ効いてくるのが期間です。協会のルールは、顧客との取引開始から判定時刻までの期間を当面の間2時間以上とし、判定時刻の間隔も2時間以上、1営業日に設定できる判定時刻の最大数は12回までとしています。つまり1回の取引は数時間で区切られ、判定時刻を過ぎればそのオプションは結果が出て終わります。

したがって、ポジションや資産を数日・数週間にわたって持ち続けている人が同じ備えを続けようとすると、回号ごとに買い直すことになります。1回あたりの購入価格は、GMO外貨が1口あたり40円から990円、外為どっとコムが1Lotあたり約40円から1,000円で変動すると公表しています(いずれも2026年11月5日確認)。買い直すたびにこの購入価格を支払い、条件を満たさなかった回はその全額が損失になります。購入価格が動く理由は購入価格はなぜ変わるのかで確認できます。

金融庁は、バイナリーオプション取引について「短時間で損益結果が判定されるため、安易に何度も取引を行ってしまうおそれ」があり、「短期間に繰り返し取引した結果、多額の損失を被るおそれ」があると注意喚起しています。回号ごとに買い直す形は、この繰り返しの取引にあたります。リスクの全体像はバイナリーオプションのリスクにまとめました。

外為どっとコムの外貨ネクストバイナリーを案内する公式ページの画面
プットの売り建てを扱わず、判定時刻に自動的に権利行使・権利消滅が行われると公表している外為どっとコムの外貨ネクストバイナリーの公式ページの引用キャプチャ(ロゴ・商標の権利は運営会社に帰属)。この記事で引用した文言は、同じサイト内の「外貨ネクストバイナリー 取引概要」にあります。出典 外為どっとコム/キャプチャ取得日 2026年8月21日、取引概要の確認日 2026年11月5日

IG証券は仕組みが違う(プットが無く、コールの売付ができる)

国内6社のうちIG証券だけは、別の形になっています。取引概要の商品区分では「コール、プットの扱い」が「コール」だけで、プットという商品がありません。そのかわり、新規の買付取引と新規の売付取引の両方ができます。下がる側に立つには、プットを買うのではなくコールを売ります。

同社の表では、売りの最大利益は受取プレミアム、最大損失は「ペイアウト-プレミアム」です。そして取引概要には「当社のバイナリーオプション取引は証拠金取引です」と明記されています。ペイアウトは0.1ロットで10,000円(損益通貨が日本円の場合)など、他社と単位そのものが違います。結果の向きが他社のプットの購入と似ていても、必要な資金の考え方と損失の決まり方が別なので、同じものとして読まないほうが安全です。IG証券での扱いはIG証券のバイナリーオプションと証拠金取引で詳しく扱っています。

プットと下落への備えについてよくある疑問

FXの含み損をバイナリーオプションのプットで埋められますか

受け取れるのは1枚あたり1,000円が上限で、下落幅に連動しません。図2のとおり、1円の下落でも3円の下落でも受取は同じです。枚数で調整するという考え方もありますが、購入価格も枚数に比例して支払うことになり、条件を満たさなければその全額が損失になります。各社の公表資料に備えとしての案内は見当たらないため、当サイトとして確認できるのはここまでです。

コールとプットを同時に買えば、どちらに動いても損をしませんか

同時に買っても、支払いの合計が受取を上回ります。GMO外貨は、スプレッドを40円とした計算例で「ペイアウト額1,000円 ≠ コールオプション価格 620円 + プットオプション価格 420円」と示しています。楽天証券も、取引価格は「ペイアウト額=コール・オプションの取引価格+プット・オプションの取引価格」とはならないと書いています。この関係はコールの意味でも計算しています。なお、判定価格と権利行使価格が同じ値になったときは、コールの側が条件を満たします。

プットを売って、受け取る側になれますか

国内5社ではできません。GMOクリック証券は「新規取引で売却から開始することや、決済取引で購入することはできません」、楽天証券は「新規取引としてオプションの売却から開始することはできません」、GMO外貨は「新規注文は購入のみです。売建(ショートポジション)の取り扱いはありません」、外為どっとコムは「オプションの売り建ての取り扱いはありません」としています。みんなのオプションも「新規の買付のみを取扱い」としています。IG証券だけはコールの売付ができますが、前述のとおり証拠金取引です。

あわせて確認する用語

下落への備えの話と用語の意味を分けて押さえておくと、各社の資料を読み違えません。

  • プット:判定価格が権利行使価格より下のときに条件を満たすオプション。プットとは
  • コール:反対側の選択で、同じ値のときはこちらが条件を満たす。コールの意味
  • オプション料:購入時に支払う額で、条件を満たさなければこれが損失になる。オプション料とは

受取額、購入価格の範囲、売建の取扱い、判定条件は、口座を開く前に各社の公式ページで確かめられます。この記事で挙げた6社はいずれも金融庁の登録を受けた国内の業者で、公表値の違いは国内6社の比較に並べています。

この記事の出典

金額・時刻・取引ルールは、下の一次情報で確認できた表記だけを載せています。 確認日以降に変更されている場合があるため、取引の前に各社の公式ページで確かめてください。